【日本企業様向けコラム】アセアンの人々が日本で働く
アセアンの人々が日本で働く(1) ハングリー精神旺盛なアセアンの若者
外国人労働者、主にアセアンから見た日本の魅力を考えながら、アセアンの人々が日本で働く姿を考えてみたい。
日本で働く外国人労働者の数が2017年に約128万人に達した。外国人労働者の国籍を見てみると8割近くがアセアンからとなっており、比率が圧倒的に多い。つまり日本で働く外国人=アセアンからの外国人労働者と言っても過言ではない。
更に247万人という別の数字を取り上げる。これは現在日本に住む全ての外国人の数だ。入国管理局が2017年6月末に集計した在留外国人数となる。外国人労働者の数と同じで、統計を取り始めてから過去最高の値となっている。この在留外国人の国籍に関しても83%がアセアンからの人々だ。この数年で急増しているのがベトナム(約23万人)、ネパール(約7.4万人)で、この3年でほぼ倍増となっている。ベトナムでは2016年に学校で日本語を英語と並ぶ第1外国語として教えることを目指す方針を発表。日本との経済関係の強化、現地の日本企業での雇用拡大を促進する狙いだ。ホーチミンやハノイに日本語学校が林立し、国を挙げて日本語ブームとなっている。
ベトナムのホーチミンのある送り出し機関を訪問。ここは技能実習生だけでなく、大学を卒業したエンジニアの日本語教育も行っている。さらに日本で働いて本国に帰ってきたベトナム人をベトナムにある日系企業に紹介し雇用拡大をしていきたいという。日本の企業で学んだ技術を母国の発展に活かせるように日系企業への就労支援などを提案している。そのため日本語の教育には力をいれている。日本語学校は1クラス25名ほどだ。入学前のテストに合格しないと日本語教育プログラムを受けられない。最初の3ヶ月は日本の生活で使う簡単なコミュニケーションの日本語学ぶ。その後、日本で働く業務の専門用語の授業が行われる。クラスでは、授業の30%ほどを日本語教師が話す時間に当て、残りの70%は生徒が日本語を話す。チームを作りテーマを与えて自ら会話をしていくようにするという。
トゥオン君は今年の夏に日本に来た男性のベトナム人ITエンジニアだ。ベトナムで日本語を学び日本語能力試験N3に合格した。N3とは日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる能力だ。現地のトップ大学を卒業して無事に日本企業への就職が決まった。「日本のアニメのナルトの大ファンです。諦めない強い信念をもつ彼のようになりたいです。これから10年は日本で働いて、日本の最先端の技術や素晴らしい経営方法、日本の文化などを学び、勉強したいです。早く今の会社のマネージャーになって、いつかベトナムで起業をします」と語ってくれた。
彼らにとって日本の魅力とはなんだろうか?人によっていろいろな魅力があると思うが今回は2つに絞って考えて見たい。1つはやはり給与水準だろう。確かに、中国の沿岸部などは急速な経済発展により、日本との給与の差がどんどんと縮まっているのは事実だ。一方で、ベトナムをなどを見てみると、まだまだそれほど裕福な家は多くはない。もう1つの魅力をあげるとすれば日本人の働き方や日本流の経営方法を学ぶことだ。日本企業は自国の文化や歴史を通じて、独特な経営ノウハウや日本流サービスを蓄積して来た。発展途上国ではビジネスの経験が浅い。そのためアセアンの優秀な若者が将来の起業などを視野に入れて来日し、日本企業の発展・成長の秘訣、働き方や経営方法を実地で学びたいと考えている。日本企業の組織でもまれて、ノウハウを吸収した上で自国に凱旋帰国して起業を果たす人もいる。
アセアンの若者が日本に魅力を感じて来てくれる。その多くは貪欲に仕事を求めて、がむしゃらに働く。そして最先端の技術やノウハウを学び自国に持ち帰る。ハングリー精神旺盛なアセアンの若者を積極的に活用していかなければ日本企業の未来はないのではないかと感じる。労働人口が減少する日本国内だけに目を向けて人材獲得の消耗戦を続けるか、労働人口豊富なアセアンに視野を広げて優秀な人材獲得にチャレンジするか。あなたならどちらの道に進むのが良いと考えるだろうか。
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アセアンの人々が日本で働く(2) アセアン人材本格活用の時代へ
豊富なアセアンからの人材が、外国人労働者として日本に学び、働きにきている現状を紹介してきたが、ここではそんな優秀なアセアンの人々を日本で受け入れ、あるいは進出先で一緒に働くための具体的な方法や考え方について記したい。まず図をご覧いただきたい。改めてなぜ今外国人労働者が語られるのか、背景と課題をまとめてみたものだ。
アセアン人材の本格活用の時代がなぜ到来したのかは、様々な要因があるが、大きくは日本の人口減少とマーケットの縮小に起因する。アセアンの若者はハングリー精神旺盛だと記したが、その裏には母国の貧しい生活、そして家族を守りたいという強い気持ちを持っている。日本で頑張って働いて「お金を稼ぎたい」「成功したい」「家族に楽をさせたい」それぞれ求めるものは違っても強いモチベーションがある。満たされていないからこそハングリーになれるのだ。現在のアセアンは高度成長時代の日本と似ている。誰もが豊かな明日を目指して、夢を持って仕事をしていた。アセアンの活気がまさに若さなのだ。
話は少しそれるが、ベトナムのホーチミンに行くと、朝から晩までバイクがものすごい量で走っている。説明できないくらいいっぱいだ。道路を埋め尽くす、という表現がありますがまさにそのくらい、狂ったようにバイクが走っている。いつも、ベトナムを訪問すると明け方早くに起こされる。なぜなら、朝5時からものすごい沢山のバイクが走ってる。そのバイクの音で目が覚めてしまうのだ。ある日地元の人に「彼らはどこに行くんですか?」と聞いた。その人は「彼らは出勤しているんじゃない、朝がきて嬉しいから走ってる。朝がきたことを喜んでるんだ」と笑って答えてくれた。私は「えっ、朝が嬉しい?」と驚いたことをよく覚えている。しかし、よく考えると年をとるってそういうことではないのだろうか。人間年をとると、そして物事に興味がなくなると、無意味なことをしなくなる。燃費が良い人間になる。バイクで自由に走って、沸騰するベトナムの成長の息吹を感じて「ああ生きてる」と実感する、それがベトナムでありアセアンだ。若いということはそういうことだと思う。ベトナムのバイクに行方などない。
さて、一方で日本でこのような若さ、仕事に果敢にチャレンジするハングリー精神を感じることがあるだろうか。エンジニアの人材不足も日本は深刻だ。そのそも理系の大学に進む学生は、将来エンジニアになることを目指しているわけではない。たまたま理科や数学の偏差値が高いから理系の大学にいく。将来エンジニアになるために理系の大学に入学して技術を学ぶ、そのようなキャリアプランは時代遅れになりつつある。アセアンではエンジニアはキャリアアップの王道だ。優秀な学生が理系の大学に入り、将来エンジニアを目指して懸命に努力をしている。
さらに現実的な労働力不足という課題も山積している。エンジニアだけではなくワーカーの不足、優秀な若者が採用できない現状、アセアンでのビジネスを行えるグローバル人材を自社内で選出するのは難しいなどである。労働力不足の課題を持つ日本と、日本で働きたいアセアンの人々の思いをマッチングさせるのであれば、今しかない。
具体的な人材活用のパターンだが、大枠で外国人労働者の属性を捉えると2つに分けらる。就業資格を持つ「人材」と、そうではない「人手」という大まかな分類だ。「人手」から見てみると、多くは背景は日本の人口減少に伴う人手不足というパターンだ。ブルーカラーが多く、労働集約型産業・職種で比較的低賃金の派遣や請負などの非正規雇用の仕事になりやすい。技能実習生もしくは留学によるアルバイト(資格外活動)を活用し働いている。ここには身分系の在留資格、すなわち「日本人の配偶者等や永住者」なども少なくない。技能実習生に関しては受け入れ対象職種(機械・金属関係、建設関係、農業関係、食品関係、繊維関係、漁業関係等)が決められている。2017年に追加された介護職種のように、申請によって追加されていく。現在これを執筆している時点では77職種あるが今後さらに増えて行くことが予測されている。また、日本で働くことに意欲的な学生は、現地の大学や日本語学校で日本語を習得して日本の大学へ留学したり、直接日本の日本語学校に留学したりする。彼ら日本の学校にきた留学生はアルバイトという形で週28時間の制約はあるが働いてもらうことが可能だ。留学生の場合は、彼らが大学もしくはそれに相当する学校を卒業した、もしくは見込みであれば、ビザの切り替えにより就業ビザで正規雇用する道も考えられる。
もう1つが「人材」である。生じる背景としてマーケットの縮小に伴うアセアン進出やグローバルビジネスに関わるパターンが多い。典型は「技術・人文知識・国際業務」や「企業内転勤」などの在留資格取得者で、主に企業の正規雇用として働く。具体的には日本の大学に留学していた学生を高度外国人として正規雇用したり、現地の大学を卒業した学生を直接雇用したり人材紹介会社などを経由して雇用する。また、理工系大学を出た学生であればエンジニアとしての採用の道もある。最近ではインターン制度もできてきており、現地の大学在学中の学生を半年から1年のインターンシップを経験させ、お互いにウィンウィンであればインターンシップ学生が一度大学に復学し、卒業後に正規雇用をするという雇用方法も考えられる。所得レベルは、日本人のサラリーマン並み、あるいはそれ以上もあり得る。前述したように日本の大学を卒業または終了して正社員として雇われる「元留学生」もこれに準じる。
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アセアンの人々が日本で働く(3) アセアンは農耕型、種まきビジネス
私は日本で一緒に働いた外国人労働者とは長期的な関係性を持つことを強く勧める。アセアンビジネス、アセアン人材育成は、「農耕型」で考える。私が20年以上のアセアンビジネスから得た答えだ。農業は、種を巻いてすぐに刈り取れるわけではない。長期的に考える必要がある。また作物が取れないからといってすぐに場所を変えられるわけではない。人材育成で考えるとすれば、日系企業が求める即戦力となる人材は少ない。彼らは宝石と同じで、どんな優秀な学生であっても磨かなければ光ることはない。教育をいちから行って数年かけて育て、一人前になる世界だ。しかし、このプロセスと踏まず、少しでも近道を求める日系企業もいる。引き抜き合戦を続け、人材の奪い合いに奔走する。しかし、これでお互いのためになるのだろうか、疑問が残る。日本の高度成長は、時間をかけたモノづくりと人づくりがあったからこそできた。アセアンビジネス、そしてアセアン人材育成に関しても今一度その基本に立ち直る必要はある。種をまかなければ作物は育たないし収穫できない。冷静になれば理解できる話だが、いざビジネスとなると忘れがちになる。アセアンビジネスは種まきビジネスだ。
長期的な付き合いをするようになれば、彼らが母国に帰るときに一緒に日本企業が外国人労働者と海外進出するという方法が出てくる。これを私は「人材先行型海外進出モデル」と呼ぶ。つまり、日本で雇用し一緒に働く。日本のビジネスに対する考え方、日本の文化や生活習慣を共有する。同じ釜の飯を食べて信頼関係を築く。外国人労働者は日本で骨を埋めないであろう。いつか母国に帰る。そのときに一緒に海外に進出すればアセアン進出のリスクは軽減される。初めて知らないアセアンに進出する際は分からないことが多い。その点、信頼できかつ日本のビジネス文化を理解している人材がいればスムーズな現地法人の立ち上げを実現してくれることは間違いない。アセアン進出のためにも、まずはじめに優秀な外国人労働者を日本で受け入れ「循環型モデル」を構築する方法は得策と言える。
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