【外国人活用事例】整備業界(3)株式会社アマギ
◆推し進める積極的な外国人活用
株式会社アマギ(小川一弘社長、神奈川県相模原市)では、11名の整備技能実習生が働く(フィリピン人5名、ベトナム人6名)。更に今年の夏までにベトナムの大学を卒業した整備エンジニアが2名正社員として入ってくる。スカイブルー人材候補だ。2019年1月に(株)アセアンカービジネスキャリアのアレンジによるベトナムハノイでの面接で、2名の雇用を決めた。現地の理工系大学で自動車整備を学び、現在日本語の勉強もしている高度人材と呼ばれる優秀なエンジニア。大学卒業後にベトナムの自動車関連企業で経験を得たのち、日本でさらなる経験を積みたいという意欲ある若者達だ。将来的にはこの2名が技能実習生のマネジメント人材として活躍してくれることを希望。外国人チームとして生産性の高い業務が行える体制を目指す。
2019年度中にアマギでは合計13名の外国人整備人材が働くことになる。外国人の採用・生活の担当責任者、中澤氏は「日本人の整備人材を13名雇用できるのかと言われれば無理です。いずれ自国に帰って活躍できる人材になってほしいと思っています。それが日本にいる従業員達にとっても大きなモチベーションとなります」と期待を込めて語る。
◆強いパッションが心に響く
初の外国人材として2018年1月にフィリピン人技能実習生3名がアマギにやってきた。小川社長は「社内の人々が外国人を受け入れるかどうかが心配でした」と本音を語る。外国人を受け入れる前の従業員の反応は決して良いものではなかったという。「ほとんどの従業員から『外国人なんかやめたほうが良い!』『外国人に技術を教えられるか!』『俺は外国人と話をしないぞ』という声が出てました」(中澤氏)。
しかし、小川社長は外国人と接する中で強い思いを感じたという。社内の人材不足から2017年5月にフィリピンを訪問して面接。「日本と全然違う!強いパッションを感じました。今の日本人アルバイトは10年後何をしたいという希望を持っていません。それに比べ彼にはすごいパワーを感じました」(小川社長)。更に「雇用の決定をしたとき『ありがとうございます!』と真剣な大きな声を聞き、もう彼らしかないと強く思いました。将来的に人手を担い、今の社員が楽になるという思いを感じました」と語る。面接から帰国後は、社内の従業員に外国人の必要性を、事あるごとに語り続けたという。
◆「ベトナムでクルマ屋の社長」が夢
アマギの現場を訪問すると3名のベトナム人が、洗車や社内清掃、点検などの業務を行なっていた。彼らは現場近くに会社が借りた3DKのアパートに一緒に暮らしている。
ベトナム人に「どうして日本、どうして整備を選んだのか?」という質問をすると、技能実習生の中でもリーダー的なベトナム人は「日本人は時間を守る、そして日本人の働き方は勉強になります。将来ベトナムに帰って先生になってベトナム人に整備を教えてあげたいです」(ドゥン氏)。更に「ベトナムにはたくさんの車が走っています、帰るとたくさん仕事があります。将来は車の会社の社長になります!」(アイン氏)と日本語で答えてくれた。
外国人を受け入れる場合、特に技能実数生に対する課題点としてよく言われるのが日本語でのコミュニケーションが難しい点だ。なかなか日本語能力が上がらず、実務を教えるのに支障を感じている企業は多い。確かに言葉もそうだが彼らの日本語能力向上だけに頼らず、マニュアルなどを日本の受け入れ企業側が準備していくことも重要だ。「ただ、背中を見て覚えろというのは無理です。外国人のための『教育プログラム』を作り、彼らに教える仕組みが必要です。日本に来て最初に車検整備を教えました。初心者を教えるマニュアルと仕組みがあるので、比較的スムーズに、たどたどしい日本語でも教えることができました」(小川社長)。
中澤氏は「キャリアプランをしっかりと描いて伝えてあげことは重要です。特にリーダーになった場合は、同じ技能実習生であっても時給を変えてしっかり評価をしていくことです。また家族から離れて単身できている分だけ気にかけてあげることが大事」と語る。
◆採用への勇気を持つこと
日本の整備工場で外国人を雇用拡大していくため、彼らを日本人と同等に扱うのは大前提だ。その上で、小川社長は『最初の採用の勇気を持つこと』の重要性を強調する。「外国人を雇用している同業経営者との付き合い、ネットワークを作ることも大切。何もしない同じ仲間といては勇気が出ません。余裕があるうちに動かないと取り返しがつかなくなります」(小川社長)。更に、人手不足がきっかけで始まった外国人雇用ではあるが、「実際に受け入れると彼らの純粋さを感じます。また、彼らの一生懸命さを見て現場の雰囲気も変わります。今、職場にはそういう活力は必要です。それが現場の活性化になっています」と、社内活性化という外国人受け入れの新たなメリットにも気が付いたと語る。
「今、外国人の活用がうまく回っているのは社員のおかげです。社員に感謝しています。外国人たちと一緒に働き始めてからは歩み寄ろうという気持ちが強かった。50期を迎える歴史で社員を大切にしていくという社風があったからです。それを作り上げてきた創業者にも感謝しています」(小川社長)。
クルマ屋の経営者が考えなくてはいけないことは、外国人を安い労働者、単なる人手ではなく、共存共栄できる戦力として考える必要がある。彼らがいずれ母国で活躍できるようなキャリアアップを支援することが求められている。
<川崎大輔 プロフィール>
「アセアンビジネスに関わって20年が経とうとしています。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出に進出をしたい自動車アフター企業様のご支援をさせていただいています。また、アセアン人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指しています」。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。