【外国人活用事例】整備業界(4)鈴木自工
◆戦力化、積極的な外国人活用
2007年から外国人を採用している総合カーディーラーが東京にある。社長の鈴木将仁氏と、執行役員でコバック事業部長の杉田佳寛氏に、これからのクルマ屋が外国人を活用していくポイントと彼らの魅力を聞いた。
鈴木自工株式会社(鈴木将仁社長、東京都江戸川区)では、2007年から外国人整備人材を雇用している。当時、新規採用が年々減ってきていた。そんな時に自動車整備専門学校から留学生の外国人整備人材の提案があった。実際に面接してみると良い感触。韓国人1名を採用した。現在、鈴木自工では、元留学生、技能実習生、アルバイトとして、合計21名が働く(2019年5月時点)。ベトナム、フィリピン、中国、ネパール、アフリカなど、その国籍も幅広い。
「日本人よりよっぽどよく働きます。外国人は教育を行うことでしっかりと戦力化できます」(杉田氏)。更に「素直だから教育をしやすいです。日本人はすぐやめてもどこかに入社できます。しかし、外国人はそんなことは言ってられない。昔の日本人のような忠誠心が強いイメージがあります。社長に選んでもらってきているから簡単にはやめられないという気持ちが伝わってきます」と語る。鈴木社長は「すぐにやめてしまうというのは受け入れ企業の問題でもあると思っています」と指摘する。
◆決して順風ではなかった、失敗も経験
特に技能実習生を受け入れる前は、現場がきちんと教えられるか不安が大きかった。「事前に、技能実習生を雇用している名古屋の企業に見学に行きました。それでも受け入れ前からコミュニケーションが不安でした。日常会話もままならず、日本に入国した時点でも思った以上に通じないのでびっくりしたことを覚えています。現場は最初嫌がっていました。彼らを受け入れるのに二の足を踏んでいました。」(杉田氏)。
鈴木社長は「実際に失敗したこともあります。道具を“ポイッ”とやるのを見て工場長が怒ったことがありました。それがきっかけで『工場長にいじめられた』と言って外国人が辞めてしまったことがありました」と語る。「文化も習慣も違う外国人には教えてなければわかりません。日本人だったらという常識のみで、教えてないことを怒ってしまったんです。日本人と感覚が違うということを踏まえて丁寧に教えてあげる必要がありました」と、しっかりと教えてあげることの大切さを指摘する。
鈴木自工では、外国人向けにマニュアルなど作ったり、目で見てわかりやすい表示、文章だけでなく写真などもつけるよう、丁寧でわかりやすい外国人への教育を意識している。
◆共存共栄の前提は、お互いを尊重し合うこと
2018年2月から3名のフィリピン人技能実習生が鈴木自工で働き始めた。洗車、オイル・部品交換、点検・車検などをサポートしている。その内の1人ジャスさんは「フィリピンはテクノロジーがまだ低いです。日本の高いクルマのテクノロジーを学んで、自分の技術を向上させたいと思いました」と日本に来た理由を語った。「日本人は車のことがわからないときには『教えてやる』と言ってくれて親切に教えてくれます。日本人の仕事の仕方は勉強になります。日本では仕事はオンタイムでしっかりとやります。そのため時間にルーズな考えのフィリピン人が持っている常識を変えて、日本での仕事に取り組む必要があります。そうすれば日本は楽しいです。日本語は仕事が終わった後に毎日勉強をしています。生活などで困ったと感じることも今まで特にありません」と指摘する。外国人も今までの常識を変えて、日本になじむように努力をしている。日本人も彼らを積極的に理解し歩み寄ることが重要だ。お互いに尊重しあうことは、外国人と共存共栄をしていく前提であることは間違いない。
鈴木自工では、技能実習生に日本人のスーパーバイザーを1名つけて指導している。日常生活から技術を教えることまで1ヶ月位つきっきりだった。杉田氏は「もうその時点では言葉はあまり気にならなくなっていました。技術などの吸収力も早いですし、彼らの一生懸命さを見て、現場の人間たちは結構早くに打ち解けた感じです。たまに実習生が食べているお弁当を見て、おかずが少ないと、現場の人間が自分のおかずを分けてあげたりするようになりました。社員教育にも良かったです」と語る。
◆人が足りなくなってからでは遅い、外国人活用
杉田氏は「外国人の本音はお金欲しいということです。しかし甘えはありません。当然、受け入れる企業は未知の部分があって不安だと思います。しかし、確実に人手が補える戦力になるので外国人雇用で失敗したとは思ったことはありません」と言い切る。
日本の整備工場で外国人を雇用拡大していくためにクルマ屋は気をつけておくこととして、「決して安い労働力として使っては駄目です。外国人というと安いというイメージがありますが日本人と同等に扱う必要があります」(鈴木社長)。更に「これから人が足りなくなる中で外国人をいらないなんて言ってられるのでしょうか?本当にクルマ屋業界の人手がいなくなる前に、早めに外国人になれたほうが良いと思っています。人員的に余裕があるうちにやったほうが良いです。今は優秀な外国人10人の中から選ぶことができますが、これからはもっと少なくなると思います。足りなくなってからやるのでは遅いと感じています」と指摘する。
そんな鈴木社長は、2019年4月16日に(株)アセアンカービジネスキャリアがアレンジするベトナム(ハノイ)での面接ツアーに参加。ベトナム人の自動車整備技能実習生3名の採用と、スカイブルー人材(理工系大学卒業のエンジニア)1名の採用を決めた。積極的な外国人自動車整備人材の活用へとアクセルを踏む。
日本は時間が経つにつれて国際的な人材獲得競争は激しくなり、さらに少子高齢化をはじめとする課題先進国の道を突き進む。すでに優秀な外国人材の国際獲得競争が始まっている。外国人を積極的に受け入れるという判断をするのであれば今、少しでも日本にきてくれる外国人がいる間に行動に移す必要がある。更に外国人にとって魅力的な自社の環境を早急に整えて行く必要がある時代にきている。
<川崎大輔 プロフィール>
「アセアンビジネスに関わって20年が経とうとしています。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出に進出をしたい自動車アフター企業様のご支援をさせていただいています。また、アセアン人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指しています」。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。