【外国人活用事例】整備業界(5) ホームネットカーズ
◆将来のベトナム人リーダーの育成
日本全国で、車両の整備・板金・塗装・クリーニング業務の店舗を展開するピッカーズ株式会社。これからの人手の不足、将来のベトナム進出を見越して、ベトナムの理工系大学を卒業したベトナム人エンジニアを採用。ピッカーズの今村久治常務から、採用したベトナム人タイン氏の様子を聞いた。
ピッカーズ株式会社(蜂須賀元宏社長、東京都新宿区)は、中古車販売のスーパーオークション、店舗日本一のニコニコレンタカーなどを展開するホームネットカーズ株式会社のグループ企業だ。
現在、タイン氏は横浜(鶴見区)にあるピッカーズの技術研修センターで、鈑金・塗装に関するリペア技術を学んでいる。日本で働こうと思った理由は「日本の自動車の商品・サービスは世界で評判が良いです。日本は技術的にも進んだ国ですのでその進んだ技術と知識を身につけて、日本での経験によって自分を成長させたいと思って日本で働くことにしました」(タイン氏)。
タイン氏を受け入れたのは「ベトナム進出の足掛かり。ベトナムに将来性を感じている。ミャンマーよりは早くモータリゼーションが来る。3年後、5年後に一般の人が自動車をもつようになるでしょう」(今村氏)。さらに「タインさんが数年頑張ってもらって、ベトナムに帰って、お店を出してもらいたい」と語る。将来的には、タイン氏が整備、鈑金・塗装のインストラクターとなり、新しいベトナム人を指導できる体制を構築していきたいと考えている。
◆ステイシリアス、ステイハングリー
現場でタイン氏を指導している日本人の先輩エンジニアは「まじめ(シリアス)なので、よく動きます。指示に対しても誠実です。日本人の若い世代は、自動車業界に入りたいと思う人は少なくオフィスで働く方が魅力的と思われると思っています。そういう意味で海外の方は、日本人より真面目に働いてくれます」と指摘する。更に「技術や知識の覚えは早いですね。見ていて次、何をするというのを予測しています。最初は日本語が通じないので、見て覚えてもらうしか方法がありませんでした。最初の2か月はそうやって工程の流れは覚えていきました。」と語る。
日本人はすぐやめてもどこかに入社できるが、異国で働く外国人にとっては難しい。そんなことは言ってられない。日本が親、アセアンが子、そのような見方の時代はとっくに終わった。確かにアセアンが日本を見習う必要がある部分はあるが、日本としてもこれからはアセアンをしっかりと見習う必要がある。特に、アセアンの活気、そしてスピード感だ。タイン氏のような若者を受け入れると、ハングリー精神を失った今の日本が持っていないたくましさを強く感じることになるだろう。
◆受け入れ前は両者が不安、上司の存在が重要
受け入れに際して不安な点は、やはりコミュニケーションだ。「やっぱり日本語ですよ。僕らが逆の立場でも、日本語が不安ですよね。以前、うちでもミャンマー人を雇っていて彼もN3でしたが、日本語が上手でした。タイン氏もN3ですがレベルに差があります。見て覚えてもらったり、身振り手振りで伝える。なるべく簡単に伝えるようにしています」(タイン氏の日本人先輩)。
「言葉の対応として、ポケトークを準備した。最初は使ってみたけれど、むしろジェスチャーを使いながらゆっくり話すことを心掛けて接するようにしている」(今村氏)。さらに「やはり、頭がいい。車に慣れてもらうところから始めている。技術はあせらず、まずは、日本語を上達してもらいたい。日本語を覚えれば、技術はやれば覚える」と指摘する。
初めて日本に来るベトナム人からしてみても、日本の生活で最初に困ることは日本語と聞く。タイン氏も「一番困ったことは日本語です。日本人はよく敬語を使いますが難しいです」と語る。毎日、家で日本語の動画を見て一生懸命勉強をしている。
外国人の受け入れがうまくいっている会社では、外国人の魅力をわかっている上司の下につける、もしくは外国人をしっかり評価している上司の下につけるなどの工夫をしている。さらに、外国人が孤独にならないよう外国人の採用の必要性・重要性を社内に(特に、人事社員や配属先の現場責任者へ)しっかりと伝えている。お兄さんのような存在として日本人上司をつけ、仕事だけでなく日常生活も2、3ヶ月つきっきりで面倒をみる。日本語コニュニケーションの言語のケアだけでなく、心のケアもしてあげる配慮をする。そのような会社では外国人が戦力となって働く。
◆固まった組織を活性化する外国人活用
すでに外国人を受け入れている自動車整備会社の中には、異文化の融合や、彼らの教育、言葉の壁にとまどう声も聞こえる。しかし、外国人を活用した会社は、例外なく組織が活性化しチームワークがよくなる。彼らの存在によって、外国人に対して面倒見の良い社風が根付く。
「タイン氏にどのように伝えたら伝わるかということを考えることが大変です。しかし、面白いことが多いです。『大福のことをケーキ』と言ったりします。特に、食については、全てが初めてのものなので面白いです。最近は、タインさんを通した社内でのコミュニケーションが生まれています」(タイン氏の日本人先輩)。さらに「日本語でのコミュニケーションでは、最初の2か月くらいは苦労しました。しかし、正月休みの間に勉強したみたいで、そこからガラッと日本語が上手になりました」と語る。
日本語も必死に勉強し、仕事でも根性がある。異国の地に来て1人で頑張る外国人をみていて、そこで働く日本人の従業員たちも『私たちもしっかりしなきゃ』と感じる。外国人の活用は、そこで働く従業員、そして組織の活性化を生み出していく。
アセアンの若者が日本に魅力を感じて来てくれる。その多くは仕事を求めて、がむしゃらに働く。誰もが豊かな明日を目指して、夢を持って仕事をしていている。そして最先端の技術やノウハウを学び自国に持ち帰る。ハングリー精神旺盛なアセアンの若者を積極的に活用していかなければ日本企業の未来はないのではないか。長期的な付き合いをするようになれば、彼らが母国に帰るときに一緒に日本企業が外国人労働者と海外進出するという方法が出てくる。労働人口が減少する日本国内だけに目を向けて人材獲得の消耗戦を続けるか、労働人口豊富なアセアンに視野を広げて優秀な人材獲得にチャレンジするか。あなたならどちらの道に進むのが良いと考えるだろうか。
<川崎大輔 プロフィール>
「アセアンビジネスに関わって20年が経とうとしています。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出に進出をしたい自動車アフター企業様のご支援をさせていただいています。また、アセアン人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指しています」。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。