【外国人活用事例】整備業界(8) ガレージフィックス
◆スピード感ある、外国人技能実習生の活用
株式会社ガレージフィックス(亀井良直社長、石川県金沢市)では、現在5名のベトナム技能実習生が自動車整備人材として働く。技能実習制度とは発展途上国の外国人を日本で一定期間受け入れてOJTを通じて技術や技能、知識の移転を図る制度だ。国内で自動車整備人材の不足が深刻化する中、外国人技能実習生の受け入れがここのところ少しずつ整備会社を中心に広まっている。
亀井社長は、2016年4月の技能実習制度への「自動車整備」の追加を知るとすぐにベトナムを訪問。「その時には退職者も出ていた時期で、お客様のニーズに応えていくには人材が必要になってきます。当時は早く人材を確保しなければお客様の対応ができない」と感じてた。5月に社長自らベトナム人を面接して採用を決め同年の10月には入国した。「初めての面接であまりわからなかったのですが、今までの自動車の経験と、日本に来て何がしたいのか明確に目的を持っているかどうかというところを優先して選抜しました。目的意識がある人の方が悪いことに流されないのかなと思ったためです」(亀井社長)。更に「素直で、ハングリー精神は昔の日本みたいに強いベトナム人を見て採用を決めました」と語る。
◆受け入れ態勢を作りベトナム人と共存共栄
受け入れ企業は、ベトナム人の生活や教育に関わる受け入れ体制を自ら作り出していく必要がある。企業毎のやり方は異なる。しかし、1つ言えることは、ただ単にベトナム人を受け入れただけでは彼らとウィンウィンの体制を構築していくことできない、ということだ。
現在、上手くベトナム人を活用できているガレージフィックスでも同じであった。初めて受け入れるときには、受け入れ反対のスタッフがいた。亀井社長は「当時は、言葉が通じたない、指導の仕方がわからない、どういった考えかもわからない。万引きや犯罪も起こっている。その人たちと一緒に仕事をしていくのは不安という声もありました」と語る。しかし今では、日本人スタッフとの仲は良い。もともと男子寮があったので日本人とベトナム人を一緒に住まわせることにしたのだ。ベトナム人が料理を作った時に、一緒に食べて話が盛りあがったりしている。寮へは月1回、点検訪問して20項目ほどチェックしして点数をつける。日本人が常に一緒にいるということで、掃除の仕方、整頓の仕方、道徳観などを日本人から学べている。点数が良いと寮のみんなで焼肉が食べれる。
入ってきた時ばかりの時、ほぼ日本語での会話ができなかった。コミュニケーションを取るのが難しかった。そこで社内で日本語教育を行なった。月に2回外部から講師を招いている。ベトナム人スタッフの定休日、10:30−16:30までの間は日本語勉強会を行う。3年目になるとベトナム人などは日本語で冗談を言えるようになった。今年(2019年)は、全員がN3の試験を受けようというレベル。無事に取得ができたら会社から3万円の臨時手当がでるということで、ベトナム人の鼻息は荒い。
ベトナム人の整備技術の向上に関しては、社内で毎月1つの整備作業に対してタイムアタックを行なっている。「車検や点検を2.3人の体制で行い、作業を確認しながら教えたり、わからない所はすぐ声を掛けやすい環境で指導しています」(亀井社長)。
◆将来はベトナム人と共にビジネス
3年目のベトナム人は、技能実習という制度上、今年で帰国する必要がある。「今では日本のスタッフは、ベトナム人が帰るということで不安がっています。ベトナム人で回している部分もあって台数入ってくるとその間の作業が進まなくなるためです。ベトナム人も3年目になると車検整備の7−8割は覚えてます。当然、最後のチェックは日本人がやっていますが、ベトナム人もシフト組んでいます」(亀井社長)。更に「ベトナム人はやると決めたことはものすごく一生懸命やってくれます。関わった子ですので、今後、ベトナムであったり、日本であったりどっちでも良いですが一緒にビジネスやっていきたい」と考えている。
亀井社長は、2019年7月、株式会社アセアンカービジネスキャリア(ACC )のアレンジでベトナム(ハノイ)を訪問。技能実習生ではないマリンブルー人材(理工系大学卒業の自動車整備エンジニア)との面接も行ない3名の大卒自動車整備エンジニアの採用を決定した。「今後もベトナム人の活用は必要です。そのためベトナム人技能実習生をマネジメントできる人材の活用も積極的に検討したいと考えています」と語る。更に、3年の研修が終了した技能実習生を特定技能(自動車整備)で5年間延長する手続きもACCを通じて進めている。これはベトナム人の自動車整備における特定技能への移行として日本で初の事例になる。亀井社長は長期的にベトナム人と共に働ける機会を常に模索し、実行している。
◆区別しない対応が重要
日本人もベトナム人も1人の人間として対応していくことの重要性を亀井社長は指摘する。「ベトナム人は、社員旅行にみんなと一緒に行ったり、社内イベントに一緒に参加させています。日本人だから、ベトナム人だからという区別はありません。我々が思っている以上に、彼らの活躍が業務を助け、社内を活性化させています。まずは積極的に採用してみることをお勧めします」と指摘する。ガレージフィックスでは、ただの労働者という付き合い方はしていない。
今後はベトナムでも採用が難しくなっていくことは間違いない。日本に来るベトナム人にも変化が見られる。少し前では都市出身のベトナム人の技能実習生もいたが、最近では地方にまで採用に行く必要がある。日本の会社では「社内に外国人労働者を受け入れるべきか否か」という議論がなされている。あなたの会社もそうかもしれない。しかし、そこには大きな問題が隠れている。つまり「門戸を開けば外国人はきてくれる」という前提での議論だということだ。今一度考えて見てほしい。優秀な外国人労働者は本当に日本で働きたいと望んでいるのだろうか?
安くて都合の良い外国人労働者として活用をしているのであれば、将来痛い目を見ることになる。すでに優秀な外国人を雇用するには「選ぶ」ではなく「口説く」という姿勢が必要だ。「もう日本では働きたくない」と本気で外国人労働者が日本に背を向けるようになる前に我々は真剣に彼らとの共存を考える必要がある。社会の一員として、共に生きる仲間として、迎え入れる覚悟が必要な時期にきていることを伝えたい。
<川崎大輔 プロフィール>
「大学卒業後、香港の会社に就職して以来、20年以上アセアンビジネスに関っています。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出に進出をしたい自動車アフター企業様のご支援をさせていただいています。また、アセアンからの自動車整備人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指しています」。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。