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【外国人活用事例】整備業界(9) ビーテック

◆自動車整備エンジニア、インターンシッププログラム

株式会社ヴィーテック(相本直樹社長、山口県下松市)は、ベトナムからインターンとして自動車メンテナンス学部の大学生2名を受け入れた。ベトナムの理工系大学と提携し、日本語教育を受けた高度人材の雇用促進プログラムとして立ち上げたACCが提供する「インターンシッププログラム」での受け入れとなる。本大学では必須科目として日本語を学び、全員が卒業時には日本語能力試験のN3レベルの習得を図る。半年間のインターンシップ生として受け入れ、大学卒業後に正規エンジニア採用として雇用する。

国内で整備士不足が深刻化する中、外国人活用の活用が広がっている。新しい自動車整備エンジニアの採用方法として、国内新車ディーラーなどが強い興味を持つプログラムだ。ヴィーテックは日本初の海外からの自動車整備インターンシップ生受け入れ企業となった。

「現在、カンボジア人の学生が3名が洗車・コーティング・室内清掃などのアルバイトをしてくれています。何度もカンボジアを訪問して、彼らの両親や家族と会っています。両親は息子たちを宜しく頼むと言って、すっかり里親状態です。真面目で、一生懸命働く彼らが社員の刺激になっていることは明らです。ベトナム人のインターンシップ生の受け入れについては当社にハードルはありませんでした」(相本社長)。受け入れまでの経緯については「ある日、大手損保会社からベトナム視察の声がかかり参加しました。ベトナムの大学を訪問して、海外の優秀な学生がどんなものなのか、ベトナム人の子供たちは日本をどう見ているのか、非常に関心を持ちました。彼らが日本のことが本当に好きで、憧れている姿に、日本の良いところをもっと知ってほしいと思いました。そこで彼らをインターンシップとして受け入れてみることにしました」と説明する。

◆外国人受け入れに必要なことは?

相本社長は「カンボジア人を受け入れているから不安はなかった」という。ただし、住居を借りる際に外国人はNGとなってしまった。そこで、ヴィーテックでは、今後外国人が増えることも考えて、思い切って会社の3軒隣の築40年~45年の中古住宅を購入。水回りから風呂ユニットまで中をリフォームをかけた。近所の方々には、相本社長が直々に挨拶し住むところを整えることができた。最近ではお好み焼きを彼らの家で一緒に作ったり、花火大会に行ったり、山口県の観光名所である錦帯橋(岩国市)を訪れた。ヴィーテックの社員も積極的に交流している。

「スタッフが彼らと付き合うのは、彼らに喜んで帰ってもらいたいという思いからだと思います。彼らが日本のことを本当に好きで、礼儀正しいところが、社員の共感も呼んでいます」(相本社長)。更に「インターンシップ生の日本語力は問題ないと思います。会話のスピードについてこれるかはありますけれど、意思疎通は図れています。また日本語は時間が経てば上達します。ただ技術はまだなかったです。まずは彼らの技術に対しての教育をしていくことです。またインターンシップ生がどういう将来の目標設定しているか、それについてどういう取り組みをするつもりなのか。その点を明確にすることが直近の我々の課題のような気がします。実際に、2人は私に創業のことや経営のことなどを質問してきます。将来ベトナムに帰って会社を起こしたいと考えているようです。そういうことを聞いて、一緒に考えてあげることも我々日本の会社として必要なのではないでしょうか」と語る。

◆現場の業務体制づくりと言葉の壁の乗り越え方

ヴィーテックはコバック加盟店となっている。コバックで使うオペレーションチェックシートというものを、ベトナム人インターンシップ生用にカスタマイズして作りそれを活用している。現場の責任者である橋本常務は「理解度を確かめて、それが担保出来たら実践に移すという流れを作っています。また、日本人の新入社員に対してもやっていなかったオリエンテーションを実施しました。自社や自分たちにとっても、教育に対する気付きは多かったと思います。最初が肝心と分かっていながら、こういうことを今まで実践せずにきてしまっていました。彼らのお陰でその重要性に気付いたということですね」と指摘する。言葉の壁に関しては、「できるだけわかりやすい言葉や表現に置き換えて、日本語の理解を促進させることを意識しています。翻訳ソフトには頼らないことが大事だと思っています。そうすると、自分たちも努力しないし、お互いに成長がない。昔はわからないことは辞書で調べるということで、自分の知識として蓄積されたという経験があります。それと同じようなことかもしれません」(橋本常務)。

彼らの業務として最初にやってもらったのは洗車だ。橋本常務は「洗車を業務の第一の基本としています。これは、車を大切に扱うということの重要性を習得してもらうためです。彼らに覚えてもらいたいことは、①仕事に対する心構え、②お客様に大事にする姿勢 この2点です。日本人は車を大切に扱います。洗車後に判明した小キズなどを大変気にします。そういう日本人の細かさを教えることが大事だと思っています。あとは、車検時に点検するブレーキ回り。今は汚れ落とし、グリス塗りが中心です」と語る。ヴィーテックでは、インターンシップ生のこれらの作業の後、整備士が作業状態をチェックしている。

◆日本の社員に刺激となる外国人

ヴィーテックの社員には、外国人が良い刺激となっている。確かにインターンシップ生は今はまだ会社に貢献できていない。しかし、新入社員へのホスピタリティがお客様へのホスピタリティへと繋がり、そこから企業文化が形成されていくことは間違いない。さらに現実的に彼らの母国でのビジネス展開を考えるきっかけにもなっており、日本人社員にグローバル感が伝わっている。実際にカンボジア人の影響もあって、ヴィーテックでは、カンボジアにおける自動車関連ビジネスの立ち上げを合弁で進めている。ベトナムでも同じような状況が起こる可能性があるだろう。

すでに外国人を受け入れている自動車整備会社の中には、異文化の融合や、彼らの教育、言葉の壁にとまどう声も聞こえてくるように難しい一面もある。しかし、質の高い多様な外国人材が来れば、そこで働く日本人の能力を引き出す刺激になる。ヴィーテックでの相本社長の想いは社内にもきちんと共有されており、外国人に対して面倒見の良い社風が根付いている。彼らが、真剣に日本語や技術を学ぶか、そして将来日本との架け橋になる人材となるか、それは日本での受け入れ企業の組織や社員1人1人がどんな気持ちで彼らに接するかによって大きく変わる。

外国人整備人材は、安い労働力として活用できると言うイメージが先行していた。しかし、彼らがいずれ母国で活躍できるようなキャリアアップを支援することが大切だ。同じ釜の飯を食べ、信頼関係を構築しておく、そうすることで、数年後に彼らが母国に帰国した後もビジネスパートナーとして捉えることができる。このような考え方や仕組みを今の自動車業界はしっかりと考えなければならない。

<川崎大輔 プロフィール>
「アセアンビジネスに関わって20年が経とうとしています。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出に進出をしたい自動車アフター企業様のご支援をさせていただいています。また、アセアン人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指しています」。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。