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【外国人活用事例】整備業界(10) マルエム

◆トップ自らが現地を訪問、調査することが海外進出の第1歩

日本国内の自動車保有台数の減少、若い人の車離れなどにより、国内自動車市場が縮小してきている。将来の対応を考える必要があるのは、整備工場を含めたすべての自動車関連企業も例外ではない。多くの自動車アフタービジネスの中小企業がアセアン市場に期待をよせている。タイヤバルブ、バランスウェイト、関連工具などを自動車整備関連企業へ提供している株式会社マルエムもその1つだ。

2018年にマルエムは、将来的なアセアン進出を考える海外ビジネス担当としてカンボジア人を正社員雇用した。2015年5月、巖谷氏は初めてアセアンの国を訪問した。目的は、国内での販売の減少を海外販売で取り戻すため海外進出の可能性を確認するためだ。アセアン各国の自動車市場をトップ自ら訪問し、目で見て、市場調査を行ってきた。「アセアンのほとんどの国を訪問して調査しましたよ。運転手付きレンタカーを借り、ひとつひとつ飛び込み営業をしました。どんな商品を使っているか?どこで売っているのか?どこの国のものなのか?価格帯はどのくらいか?など直接聞いて回りました」(巖谷氏)。

その中でカンボジアへの進出の可能性を感じた。現地でビジネスを行うには現地クメール語が必要。最初はカンボジアに訪問するたびに通訳をしてもらうアルバイトとして現在正社員雇用しているナイシムさんを紹介された。出張の際のサポートしてもらっていた。その後、徐々に通訳から会社情報や商品内容の資料翻訳、現地での営業サポートと業務の幅を増やしていった。大学卒業と同時に正社員雇用として日本本社に来てもらうことにした。

近い将来、アセアン進出の可能性がある経営者は、少しでも関心のある国を知り、必ず時間を作ってその国を訪問することが必要だ。これが進出への第1歩となる。そして、現地で自分自身の五感をフルに活用し、その地域の人々に接する。そうすることで現地の人との出会いも生まれる。これがビジネスに活用できるいきた資源となる。

◆日本人の真面目さを知って、更にチャレンジ

外国人を自社で受け入れる前には、「何年続けて日本で働いてくれるのか?」「日本の生活にしっかりと慣れてくれるのか?」などの不安は当然あるだろう。しかし、外国人にとっても1人で日本に来るというのは不安だ。巌谷氏は挨拶のためナイシムさんのご両親を訪問した。「ご両親は大事なお子さんを預けてくださる。お子さん働く会社が安心できる会社だとご両親にも理解してほしい」(巌谷社長)。更に、巌谷氏は「外国人材の魅力は、言語ができること、現地の習慣に通じていることなどがあります。しかし、特に感じるのが、日本に来て働きたいと考える外国人は意識が高く優秀な人が多いということです。やる気もすごくあります。どんどん『ほかにやることないですか?』と聞いてきます」と語る。

◆外国人を積極的に活用

2018年12月に入社したナイシムさん(正社員雇用のカンボジア人)の仕事は、オフィスではマルエムの商品、自動車ビジネスに関連することを学び。タイ、マレーシア、カンボジアの自動車マーケットの情報リサーチもしている。海外出張も重要な業務で、出張前の準備として商品サンプルの準備、訪問先(新規顧客)を調べてリストを作成、営業アポイント取得、現地で商品紹介を紹介し営業行う。同時に、海外での通訳もこなす。

ナイシムさんは「大学では日本語を勉強していて、それをいかした仕事をしたいと思っていました。日本で働くのはお給料もいいですし、毎日、日本語でコミュニケーションを取れるし、スキルアップもできると思います。仕事内容にも働きがいがあるし、将来性もあると思います。特に海外で新しいことにどんどんチャレンジしたいです」と日本人を変わらない流暢な日本語で話をする。現在、マルエムはカンボジアで、バランスウェイト、工具(ウェイトカッター、エアゲージなど)、チューブレスバルブ、ポリ製品(フロアシート、シートカバー、ステアリングカバーなど)の販売をしている。それ以外へのアセアン諸国にも販路を広げる計画をしている。

海外でチャンスをものにする経営者に見られる共通点は、進出しようとしている国やマーケットに、経営者自らが大きな期待、関心をよせて、積極的に現地の人を登用し、深く関わろうとしていることだ。

◆できないことを埋めていく努力、外国人に歩み寄る努力が必要

初めてのカンボジア人の活用という点では、マルエムはスムーズにいっている。理由としては帰国子女を従業員として雇用した経験があるためだ。「日本語で流暢に話ができるからといっていきなりビジネスでの話がスムーズにできると思うのは大きな間違いです。最初からすべてはできません。日本の感覚で話をしても納得してくれません。帰国子女にしても似たようなところがあります。」(巌谷氏)。更に「日本に来たら郷に従えというのは無理です。郷に従ってもらえる説明と彼らへの理解が必要です。頭ごなしに怒っても相手は何をいっているのかわからないです。しっかりそれを理解した上で、理由をしっかりと伝えて、本当にわかったかひとつひとつ確認していってあげる必要があります」と指摘する。

年功序列の会社では日本特有の文化から抜けられない。海外で育った外国人が理解することは難しい。日本人を普通に雇用するわけではないということをきちんと理解しなければならない。日本の習慣を押し付けるというよりも、日本では異なる感覚をしっかりといかして外国人なりの考えを提案させていく。つまりお互いが歩み寄る方がウィンウィンの関係を築くことができる。日本人の経営者の中には日本語の能力のみで彼らの人格すべてを判断してしまう傾向が強い。彼らは宝石の原石だ。教育という磨きをかけないと光る宝石に変わることはない。外国人を雇用するには自社で自らが育てていくという思いが必要だ。能力は人格の1部であるということを忘れてはいけない。

<川崎大輔 プロフィール>大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、アセアンプラスコンサルティング にてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。2017年よりアセアンからの自動車整備エンジニアを日本企業に紹介する、アセアンカービジネスキャリアを新たに立ち上げた。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。