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【外国人活用事例】整備業界(11) 初石板金

◆将来を見据えた外国人活用の計画

株式会社初石鈑金(熊本匡史社長、千葉県流山市)では、ベトナムから3名の塗装技能実習生を受け入れた。2018年9月に熊本社長自身がハノイへ行き実習生を面接。彼らが2019年になって無事に日本へ入国した。「うちの会社は、今まで、みんな、外国人と働いたことがありませんでした。そのため未知の部分が多かったです」(熊本社長)。更に「現地で15名の実習生候補と面接を行いましたが、選ぶ条件として性格を重視しました。受け入れる時に一番不安だったのは、外国人が会社に入って社内の規律などが乱れることでした。輪を乱されることを不安に思ったので協調性がありそうな人材を選ぶことにしました」と語る。

受け入れを決めた背景として、当然、人手不足というのがあった。実際に求人をしてみても応募が少なく、人がなかなか集まらない状況が続いた。熊本社長は「この状況が好転することはないと思います。将来的に深刻な人手不足になると考えれば、外国人でも対応できる状況を今から作っておくことが必要だと感じ外国人採用に踏み切りました」と語る。

現実的には、技能実習生の受け入れを決めてもすぐに技能実習生は会社に入ることができない。受け入れの申し込み、実習生の募集を経て、現地での面接を行う。面接後は、現地での事前教育・講習、日本への入国手続き(在留資格取得)、日本国内での講習、を行いようやく会社に入ることができる。現在、現地での面接をしてから会社に入るまでに10ヶ月以上を見ておく必要があるだろう。さらに入国後のトレーニングも必要だ。技能実習生に限らず、外国人の活用は、先を見据え、余裕があるうちに進めていく必要がある。

◆共に働くことでようやく理解できる、ベトナム人

外国人を受け入れる前の従業員の反応は決して良いものではなかったという。「入社前は外国人に対して良い印象を持っていないように感じました。社長は外国人を『安い給料で働かせるのが目的』のように思われていた感じもします」と熊本社長は当時を振り返る。しかし、「社員も会社が人材を応募してもなかなか採用が難しく、業界全体の人手不足を理解していた部分はあったので、激しい抵抗はありませんでした」(熊本社長)。同時に面接から帰国後は、社員に外国人活用の必要性を語ったという。

実際にベトナム人が入社してきてからは、社内の雰囲気が一気に変わった。「とにかく明るいですし、礼儀正しい。素直ですし、仕事一生懸命です。当初の外国人のイメージが私も含めて社員もガラッと変わりました」(熊本社長)。更に「仕事の覚えが早く日本人の見習いと比べても遜色がないのは驚きました。日本語についても、想像しているよりコミュニケーションがしっかりと取ることができました。最初はスマホアプリなどで意思疎通をとっていましたが、すぐにそれをやめました。壁がないというわけではないですが、深刻ではない。1つのことを伝えるのに時間がかかるだけ」と語る。

受け入れ後は、技術的な研修は、経験のある日本人指導者を指名してマンツーマンで業務を教えている。日本人の見習いと同じ順序で仕事を覚えさせている。また、生活に関しては、ベトナム人技能研修生たちに、日本人社員が住む隣のアパートに住んでもらった。隣に住む日本人が生活指導を行なっている。最初は日本人の社員を一週間べったりと貼り付けた。つききりで、交通ルールや携帯などのマナーを教えた。今は日本人がたまに彼らのアパートに行き生活状況をチェックしている。しかし、ベトナム人技能実習生たちも率先して、アパートの草むしりなどをしているようで、周辺の評判はすこぶる良い。

◆「ベトナムでクルマの会社を作りたい!」

鈑金塗装工場を訪問すると2名のベトナム人が工場内で作業を行なっていた。ベトナム人にどうして日本、そして将来何をした以下の質問をすると、「お姉さんが、日本に留学したことがあって日本に興味を持ちました。車が好きです。勉強して姉の車を直してあげたいです。将来は、日本語の教師になって日本に来るベトナム人に教えてあげたいです。日本語がわかると仕事やしやすいです」(ミン氏)。更に「私は車が好きです。今ベトナムにはたくさんの車が走っています。将来はベトナムでクルマの会社を作りたいです!」(ロン氏)と日本語で答えてくれた。

熊本社長は「ここにいる3年の間に、彼らには一人前になってほしいです」と語る。更に「課題点としては、3年くらいで母国に戻ってしまうというのは期間が短いと思います。教育には時間がかかる。そのため、滞在期間の制限がない大卒の自動車エンジニアであるスカイブルー人材を活用し、研修生の受け入れ支援部隊を作っていくことも将来的にはありかと考えています」

◆人手が足りなくなってから採用では遅い

日本の整備工場で外国人を雇用するためにクルマ屋が気をつけておくこととして、熊本社長は『将来を見据えた計画採用』の重要性を強調する。「将来、日本人の採用はさらに困難になることは明らかです。本当に人材が足りなくなってから動くのでは遅いと思います」(熊本社長)。更に「教育には時間が必要です。これは日本人でもベトナム人であっても同じこと。余力がないとベトナム人の教育はできません。多少余力があるうちに採用の仕組みを作り、段階的に着手する必要があると思います」と外国人活用のための先を見据えた計画採用の必要性を語る。

初石鈑金の業務としては、自動車販売、自動車整備、鈑金・塗装、ロードサービス、損害保険がある。その中で、鈑金・塗装に限っては、すでに社員の平均年齢が48歳だ。15年後には多くの日本人社員が定年を迎える。しかし、日本人の若手が採用できるかといえば難しい。熊本社長は「社員の年齢が50歳前後に偏っていて近い将来一気に退職することが予測されます。その時に外国人採用を始めていくのでは絶対遅いと思います。その前に準備をしていく必要がある。将来は、リーダー以外の多くが外国人になっていく、この可能性もあり得ると思っています」と語る。

今、クルマ屋の経営者が考えなくてはいけないことは、外国人と共存共栄していくこと。「なぜ、外国人を受けいれたのか?」。各社とも当初は単なる人手不足が理由であったのかもしれない。しかしながら、将来の海外進出、または海外ビジネスとのブリッジ人材としての活用。さらに外国人受け入れ後には社内組織が活性化することのすごさに気が付いている経営者は意外と多い。すべてのクルマ屋が外国人の受け入れの問題に真正面から向き合う時代がきたと言える。

<川崎大輔 プロフィール>
「アセアンビジネスに関わって20年が経とうとしています。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出に進出をしたい自動車アフター企業様のご支援をさせていただいています。また、アセアン人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指しています」。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。