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【外国人活用例】整備業界(15) ヤマヒロ株式会社

◆技能実習生採用のパイオニア企業

日本における認定工場としての自動車整備会社は約9万2,000社。日本自動車整備振興会連合会による自動車整備白書によれば、その中で約5割の整備事業会社で整備士が不足している。約1割の事業者がすでに運営に支障が出ているという。自動車の整備は、自動車ユーザーの安全確保、環境に重要な役割を果たしているが、少子化や若者の車離れの進展などにより、自動車整備士を目指す若者が10年間で半減。一方で、整備士の高齢化が進展しており平均年齢43.8歳で、約2割が55歳以上となっている。近い将来、車社会の安全、安心に直結する自動車整備を支える人材不足が更に顕在化することになる。

自動車整備における人手不足が叫ばれる中、2016年4月1日より外国人技能実習生制度において「自動車整備」が職種に追加されることになった。自動車整備、鈑金・塗装業界で外国人技能実習生の活用が可能となったのだ。しかしながら、当初はすぐに技能実習生の採用を行う企業も少なかった。ヤマヒロ株式会社は、いち早くベトナム人技能実習生(整備)の採用を決めたパイオニア企業だ。

「いち早く採用を決めた理由は、海外の人材と働く機会を作ることで新しい世界に社員が飛び込める経験をつくることができると感じました。社員に新しい異文化との触れ合い、経験をさせるために、トライアルという感覚もありました。私も海外に留学した経験があり多様性を学ぶことの大切さは知っていたためです」(山口社長)。更に「うちに来てくれた若いベトナム人には、せっかくヤマヒロで働いてやめたときに『この会社で働いてきてよかった』と思えるような成長できる経験をさせたいと思っていました。若い人は成長することで大人になるためです」と語る。

◆常に外国人活用のメリットを探す

ヤマヒロ株式会社は、顧客価値を創造する経営革新を目指す企業として2019年に経営品質評議会より経営革新推進賞を受賞した。このような優良企業でも順風満帆な外国人活用ではなかった。初めての技能実習生ベトナム人が2名逃げてしまったのだ。周りに外国人を活用している自動車整備企業がなかった。すべては手探りの状態となっていた。「当時、ベトナム人に対するケアが少なかったと自覚しています」(山口社長)。更に「残業をもっとしたいと言っていました。給料を稼ぐためでしょうが、希望通りにはならなかったのかもしれません」と話す。このような経験を通じて外国人活用に対する課題点も見つけることができている。山口社長は「まだ若い彼らには計画的生活を教える必要があります。仕送り面とか家族との話し合いがなされていないようです。ある程度オープンにして話し合う必要があるのではないでしょうか。なぜなら、全部仕送りしてしまう。そうすると彼らが日本で生活できなくなってしまいます、すると悪いことをするため逃げてしまう可能性もあります」と話す。こんな経験があっても、ヤマヒロでは2回目以降も技能実習生を採用し続けている。

面接は、初めての技能実習生はなんとなく選んでいた。しかし2回目以降の技能実習生採用の面接では、逃げない人というのを意識しながら選考をしたと言う。山口社長は「
1つ目に野心が高くない人、欲がない人を選んでいます。2つ目に飽きっぽい人、落ち着きがない人は採用しないようにしています」と語る。

入社当初のコミュニケーションにしても、全然話ができなかったようだが、山口社長は「言葉が通じない方が問題起きず揉めない」と前向きな意見が返ってきた。電話などで伝えるのであれば不安なので直接、目を見て話をしてあげれば、ある程度まで通じるという。受け入れ時には、工場長が道具や場所にひらがなのシールを貼ったりしてわかりやすくしていくことで、業務での不安を取り除いていった。技能実習生の受け入れまでの対応は組合とやり取りを行い、生活面は直属の所属長をはりつけて任せていった。

技能実習生の活用に関しては「不満も不安も特にない」という。異文化だから大変だと捉えるのか、それとも刺激(新しい発見)と捉えるかで全く違う見方になる。山口社長は常に新しい発見というメリットを探すようにしているように感じた。

◆組織活性化になるベトナム人実習生

社内における技能実習生担当の松本課長は、「整備したからオッケーではなく、安心安全などもわかるようになってほしいです。せっかく日本に来て働いているのですから、本国に帰ってからも日本でやってきたことを活かして欲しいと考えています」と語る。更に「一緒に働いてみて初めてわかることですがベトナム人は素直で、日本人以上に努力をします」(松本課長)。

彼らの学んだ技術を本国でも活用できるように教育をし、彼らの人生の夢を叶えられるように教育していくことで、日本人スタッフのモチベーション向上につながるだろう。「他の日本人に良い影響を与えています。手帳に書かれた会社のビジョンを書き写しすると2万円がもらえる制度があります。日本人はやらないのですがベトナム人はすぐにやります。整備もいち早く覚えて戦力になろうとしてくれます。そういう姿を日本人が見ることで、日本人スタッフのマインドも変わってくるのです」(山口社長)。更に「ベトナム人たちには自己成長を期待しています。つまりお金の他に何かやって欲しいと思っています」と指摘する。

私(川崎)が関わったほとんどの自動車整備会社の外国人活用のきっかけは人手不足からかもしれないが、外国人の生き方や働き方、マインドを通じて、日本人スタッフの意識が変わり、何かしらの組織活性化が起こるのを見てきている。

◆重要なことは外国人と対等に向き合うマインド

「外国人の活用を人手不足を解消する目的でやらないこと、これが間違いなく重要です。新しい世界を見にいくために対等に扱うことが求められます。これは業界に限ったことではありません」(山口社長)。更に「外国人は今後必ず増えていきます。ヤマヒロでも一年目以降には現場の日本人社員が彼らのことを戦力と言ってくれています。日本人も外国人も同じだという考え方です。しかし、最も重要なことは外国人の活用にチャレンジすることです。そうしなければ新しい世界を見るどころか、手遅れになってしまいます」と語る。

まさに、日本の整備会社は外国人整備人材とどのように向き合っていかなければならない時代に突入している。彼らと対等に向き合うことが必要だ。外国人を安い労働者としてではなく共存できる戦力として考え、新しい発見を探せるメリットとして捉えることで共に成長していくことになるのではないだろうか。

<川崎大輔 プロフィール>
「アセアンビジネスに関わって20年が経とうとしています。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出に進出をしたい自動車アフター企業様のご支援をさせていただいています。また、アセアン人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指しています」。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。