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【外国人活用事例】整備業界(16)  株式会社横山モータース

◆外国人雇用は将来の夢、海外と繋がるため

株式会社横山モータース(横山隆仁社長、岐阜県各務原市)では、フィリピンから2名の技能実習生を受け入れた。外国人を雇用する前に、愛知県でフィリピン人を活用している自動車関連企業に見学に行った。実際、現場を見学し、フィリピン人でやっていけそうだという感覚を持った。すぐに現地での面接を行うことにした。マニラでの面接に横山隆仁社長、横山智紀専務の2名で訪問。「夢を持っているか、さらに人柄を見て選別を行ないました。この人と一緒に働きたいかというところを重視しました」(横山専務)。更に「彼らには、日本を好きになって欲しいと思いました。そうすればフィリピンを含めたアセアンの人たちも日本を好きになってくれる。世界で日本の魅力や地位を上げてくれると思うからです」と言う。

近い将来、日本いくる外国人労働者は確実に減る。なぜなら、今後世界的な労働不足に発展する中で、日本で働く魅力がなくなっていくためだ。事実日本離れは静かに進んでいる。外国人が日本で働きたいと思えるような会社の環境、制度、受け入れ体制を作っていかなければならない。少しでも日本に興味を持ってくれる外国人がいる間に、それぞれの企業は早めに行動すべきだろう。

横山専務は、「外国人を受け入れることにしたのには、自分たちの夢もありました。将来の海外進出です。アジアの国に行ったことがありますが、カンボジアなど2人に1人は仕事がない状態です。自動車ビジネスを通じて雇用を現地に創り上げる。社会へ貢献ができると感じます。また日本では自動車整備は不人気な仕事です。しかし、海外では自動車整備エンジニアなりたい人がけっこういます。外国人を雇用することで日本の社内に海外の文化を入れておきたと思いましたし、海外と繋がりを持っておきたいと思っています」と語る。

◆スムーズな外国人材の受け入れ体制構築のポイント

「現場で受け入れてくれるかはすごく不安でした。しかし、初日にスタッフの前で挨拶して現場に出てもらい、すぐに受け入れられたようでしたので安心しました」(横山専務)。スムーズに受け入れられた理由として、すでに現地で自動車整備の経験がある人材でだったというがある。

しかし、それ以上にスタッフが外国人と接した経験があったことが大きなポイントだ。以前、横山モータースでは、日本で整備学校に通うベトナム人をアルバイトとして活用していたことがあった。過去に外国人と接した機会があると随分と違う。アルバイトたちと一緒に仕事をしたことによって、スタッフの中で外国人に対する基準が自然とできていたのだろう。更に整備現場スタッフの平均年齢が20歳代と若かった。若いエンジニアは考え方が柔軟だ。今回来たフィリピン人たちとも年齢が近かったのも、良い受け入れ環境だったと言えるだろう。

話を聞くとそれだけでもなさそうだ。フィリピン人による努力も皆わかっている。横山専務は、「フィリピン人たちは、誰よりも早く出社してきます。そして掃除をしているんです。素直ですし、仕事も一生懸命です」と語る。

現在、フィリピン人は、職場に近い2LDKのアパートを会社で用意しもらい2人で一緒に住んでいる。横山社長や専務は、時々彼らを夕食に誘って一緒に食べたりしている。日本の文化を理解してほしいと言う思いから、夏にはフィリピン人たちに浴衣を着せて花火大会に連れて行った。「若い社員が多いので、彼らに日本語の下ネタを教えたりしています。一緒に笑ったり、美味しいといいながら一緒にランチ食べたりするので、お互い心の距離が近いように感じます」(横山専務)。社長、専務も彼らと積極的に交流をしている。このようなトップの行動は、外国人を受け入れる企業にとって重要だ。トップの思いが社内に伝わる、だから良い循環が生まれることになる。

◆外国人雇用は考える前に、まず行動!

日本の自動車業界で外国人を活用、雇用を拡大していくには、外国人に対する理解、そして企業側の受け入れ体制構築が重要になる。独自に行った自動車業界経営者へのアンケートでも「自動車整備の外国人技能実習生について検討しています」「自社の課題として自動車整備人材の採用は課題であり、その解決の一助が海外からの人材の受け入れにあるのではと可能性を感じている」「外国人を受け入れたいが、マネジメントやコミュニケーションがきちんとできるか不安というのが外国人雇用における大きな壁となっている」などの声が出ている。しかし、まず外国人を最初に雇用をしてみなければ始まらない。当然、初めて外国人を雇用する経営者は不安だろう。

「外国人の活用を検討されている企業様に対してアドバイスするとすれば、まず判断する前に外国人の雇用をした方が良いです。雇用が不安であれば、あれこれ考える前にまず確認するための行動をした方が良いと思います。例えば外国人を受け入れている会社を視察してみるとか、自ら海外視察ツアーにいくなどされると良いです」(横山専務)。更に「小さなことでも良いのでまず動く。これが大事。その後に判断すれば良いと思っています。そうでなければずっと外国人は雇用できないでしょう」と指摘する。

考えてみてほしい。外国人が働いたことがない会社に入るという、外国人材の方がもっと不安であるという事実がある。

◆彼らが帰国した後はどうする?

横山専務は「現状、外国人雇用で大きな課題や問題は抱えていません。しかし、彼ら技能実習制度が終了して国に帰った後どうするか、受け皿があるのか、どういった支援ができるのか考えています」と語る。

私は日本で一緒に働いた外国人材とは長期的な関係性を持つことを強く勧めている。アセアンでのビジネス、アセアン人材の育成は、「農耕型」で考える。私が20年以上のアセアンビジネスから得た答えだ。農業は、種を巻いてすぐに刈り取れるわけではない。また作物が取れないからといってすぐに場所を変えられるわけではない。人材育成で考えるとすれば、日系企業が求める即戦力となる人材は少ない。彼らは宝石と同じで、どんな優秀な学生であっても磨かなければ光ることはない。教育をいちから行って数年かけて育て、一人前になる世界だ。しかし、このプロセスを踏まず、少しでも近道を求める日系企業もいる。引き抜き合戦を続け、人材の奪い合いに奔走する。しかし、これでお互いのためになるのだろうか。日本の高度成長は、時間をかけたモノづくりと人づくりがあったからこそできた。

長期的な付き合いをするようになれば、彼らが母国に帰るときに一緒に日本企業が外国人材と海外進出するという方法が出てくるだろう。つまり、日本で雇用し一緒に働く。日本のビジネスに対する考え方、日本の文化や生活習慣を共有する。同じ釜の飯を食べて信頼関係を築く。外国人労働者は日本で骨を埋めないだろう。いつか母国に帰る。そのときに一緒に海外に進出すればアセアン進出のリスクは軽減される。横山モータースに限らず、このような長期的な視野での人材先行型海外進出が、外国人材の最高のウィンウィンの活用方法だと考える。

<川崎大輔 プロフィール>
「アセアンビジネスに関わって20年が経とうとしています。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出に進出をしたい自動車アフター企業様のご支援をさせていただいています。また、アセアン人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指しています」。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。