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【外国人活用】整備業界(17) 株式会社大壕オートサービス

◆10年前からの外国人整備人材採用

株式会社大壕オートサービス(出島敬一社長、福岡市中央区)では、現在5名の外国人整備人材が働く。就業ビザを取得している中国人2名、ベトナム人1名の他、ベトナム人技能実習生2名だ。大壕オートサービスでの外国人の受け入れは古く10年前に遡る。当時日本人が雇用できなかったため、補充要員として中国人エンジニアを採用したのがきっかけだ。ただし、技能実習生の採用は初めてで2018年1月にベトナム人2名が入社した。

就業ビザとは、大学レベルの専門教育を終了したエンジニアのことである。大壕オートサービスで働く3名は、日本の自動車整備学校を卒業したエンジニアだ。技能実習生とは発展途上国の外国人を日本で一定期間受け入れてOJTを通じて技術や技能、知識の移転を図る制度で働く研修生の位置付けとなる。2つの在留資格は就労と研修ということで全く異なる目的のものだ。しかし、国内で自動車整備人材の不足が深刻化する中、外国人技能実習生の受け入れがここのところ少しずつ整備会社を中心に広まっている。

当然、受け入れ企業は外国人の教育をしていかなければならない。彼らは原石であって、磨かないと光ることはない。誤解を恐れずに言えば、自社で教育をしなければ外国人はいきなり業務をし、日本での生活を行うことはできない。大壕オートサービスでは、過去の外国人活用の経験も活用しながら、ベトナム人技能実習生の業務の教育や生活サポートに積極的に関わり受け入れ体制を整えていった。社内での教育は、現場では専任がついて補助的なことをやらせている。業務後のチェックは日本人が行い、技能実習生が間違っていた場合はその日本人担当者の責任というスタンスで行っている。日本のテキストをベトナム語に変換して教えており、自動車整備3級のテキストなどもベトナム語のものを使い教育をしている。すでに2年目の技能実習生で3ヶ月点検などは自ら行える状態になった。

◆日本人に負けないハングリー精神

「ベトナムで技能実習生を面接した時は、技術はもともと高いとは思っていませんでした。誠実かどうかで判断しました。ホームシックになりそうかなどの判断をするときに『彼女がるのか?』、また日本で生活していくにあたり『料理ができるか?』などは確認をしたかった質問があります」(出島社長)。更に「ハングリー精神は今の日本人よりベトナム人の方があります。また昔の日本人のように素直にまっすぐ頑張ってくれます。『日本人はブラック企業かどうか?』を見るのに対して『ベトナム人はたくさん働きたいから残業あるかどうか?』を見る傾向が強い。日本人は年間休日少ないからやめますというが、むしろベトナム人は給料を稼ぐためにも休日だけでなく残業も積極的です」と語る。

ベトナムの若者はハングリー精神旺盛と言うのは、その裏には母国の貧しい生活、そして家族を守りたいという強い気持ちを持っている。日本で頑張って働いて「お金を稼ぎたい」「成功したい」「家族に楽をさせたい」それぞれ求めるものは違っても強いモチベーションがある。満たされていないからこそハングリーになれるのだ。現在のベトナムは高度成長時代の日本と似ている。誰もが豊かな明日を目指して、夢を持って仕事をしていた。その活気がまさに若さなのだ。彼らを受け入れる直前には、従業員は本当に業務ができるのか不安だったが、実際に入社してみたらよく仕事を覚えて働き、すでに2年目には必要な存在となっている。

◆ベトナム人獲得競争が起こってる!

なぜ、ベトナム人が自動車整備人材として日本に来ているのか?疑問に思ったことはないだろうか。

自動車整備でベトナム人が人気な理由は大きく3つ挙げられるだろう。1つ目に真の親日国であるということ。ベトナム戦争の後、同国を一番支援した国が日本であるため、謝意と尊敬の念を持っている。経済、技術など様々な分野で世界の上位にある、アジア代表国への憧れもあるだろう。2つ目に、第一外国語に日本語を取り入れている唯一無二の国ということ。初等教育から日本語を教えている。それゆえに、日本語学校などの教育機関が他国と比較して充実しており、日本語習得に関心の高い方が多い。3つ目として、国策として、工業技術の発展、強化を図っている点があげられる。工業技術の教育に力を入れており、数々の工業系大学が存在している。世界ロボットコンテストにて毎回上位を占めるなど、優秀な大学も多い。自動車整備科を設けている大学も存在する。

出島社長は「ベトナムが人気で、他国との取り合いになっています。今後も良い人材がベトナムから採用できるか心配です」と、すでにベトナム人の将来の獲得競争が課題と感じている。

◆区別しない対応が重要

外国人を雇用する時、彼らを気遣い、日本人も彼らも平等に1人の人間として接していくことは当たり前だ。、「ベトナム人は、遠い日本に1人で来ていて寂しがったりすることもあります。たまに他社で働くベトナム人同士の交流も行うようにしています。また社員旅行、忘年会、福岡ソフトバンクホークスの野球観戦など、社員のみんなと一緒イベントに参加したり、食事にに行ったりする機会を作っています。日本人だから、ベトナム人だからという区別はありません」(出島社長)。更に「なるべく日本人の社員と触れ合う機会を作ってあげる方が、社内の業務もコミュニケーションも円滑になり社内が活性化します」と指摘する。

今後はベトナムでも採用が難しくなっていくことは間違いない。日本に来るベトナム人にも変化が見られる。少し前では都市出身のベトナム人の技能実習生もいたが、最近では地方にまで採用に行く必要がある。

出島社長は「今後、地方であればあるほど、外国人を活用せずに生き残るのは難しいと感じています。日本の少子化はわかっているのに、外国人が働いていたらお客さんが来なくなると言う。そんなことを言っているのは大変危険な考えだと思います」と語る。

日本で働いてくれるベトナム人がいるうちに、我々は真剣に彼らとの共存を考える必要がある。彼らをしっかりと仲間として受け入れ、迎え入れる覚悟が必要な時期にきていることを伝えたい。

<川崎大輔 プロフィール>
「大学卒業後、香港の会社に就職して以来、20年以上アセアンビジネスに関っています。アセアン各国で駐在後、日本に帰国して大手中古車企業にて海外事業部の立上げに従事。現在、アセアンプラスコンサルティングを立ち上げアセアン進出に進出をしたい自動車アフター企業様のご支援をさせていただいています。また、アセアンからの自動車整備人材を日本企業に紹介する会社アセアンカービジネスキャリアも立ち上げ、ASEANと日本の架け橋を作ることを目指しています」。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。